東北大学・多元研・放射光産学連携準備室(SLiT-Jについて)

「コウリション・コンセプト (Coalition Concept)」とは?

国際的な技術開発競争に活用できる学術界産業界の新たな連合の形です

かつての放射光の利用は、専門家の学問的好奇心に基づく学術研究(Curiosity-Driven Science)がほとんどでした。 しかし、近年の 放射光の性能(高輝度性、平行性、干渉性、偏光性、パルス特性など)の急速な進歩により、実課題の解決に向けて「光を使いこなす」ことでテクノロジーを発展させる研究分野(Technology-Driven Science) へと大きく変革を遂げました。

もはや放射光施設は「学術研究のための大型施設」に留まらない学術研究・産業技術開発を支える、重要な先端研究開発基盤といえます。

しかし、最先端の放射光技術を使った研究では、産業界のユーザーが独力だけで行う従来型の「産業利用」では困難なことも多く、放射光科学の専門家の支援を必要とする状況が増加しつつあります。

そこでは、放射光のイノベーション活用に、企業の情報セキュリティの確保と、大学の基礎研究の公開成果の共有のバランスが必須となります。

コウリション(Coalition: 有志連合)コンセプトは、それを実現するためのSLiT-Jにおける産学連携の仕組みです。

コウリション・コンセプトの下では、企業は、必要に応じて学術研究者と一対一の研究開発のペアを組み(コウリション)、 学術研究者の支援のもとで製品開発競争へ放射光を利用することができます。 学術研究者は、全体で共有される放射光活用の学術的基盤成果を基に、各コウリションにおいては パートナー企業とともに研究開発ターゲットを戦略的に設定し、 重点的な放射光活用により、パートナー企業に卓越した成果を効率的にもたらす責任を果たしていきます。 これにより、コウリション間の健全な競争原理が確保されます。

コウリション・コンセプトによる開発研究の実例

コウリション・コンセプトによる開発研究の実例

コウリション・コンセプトの契機となったのが、2008年、放射光施設SPring-8に結成された産学連携コンソーシアム「フロンティアソフトマター開 発専用ビームライン産学連合体」です。これは、ポリマー業界のメーカーを中心に19社が出資して専用のビームラインを建設し、先端材料開発に産学共働で放 射光を活用するための組織です。

この組織の特長は、学術メンバーによる基礎研究や先端計測技術の開発成果をコンソーシアム全体で共有する一方で、各企業による新製品開発では専属パート ナーである大学研究者と取り組み、コンソーシアム内で競争することにあります。基礎研究は共有しつつ、1対1の産学パートナーがコウリションをする新しい スキームは、一堂に会してのオープンな産学連携では企業間の製品開発競争に深く踏み込めない難しさに対する一つの解決策の提示でした。

コウリション・コンセプトによる開発研究の実例

そこでは実際に、住友ゴム工業、横浜ゴム株式会社、株式会社ブリヂストンが競争する形で別々の大学の研究室とコウリションを組み低燃費タイヤの開発研究を 行いました。SPring-8における産学連携が、それぞれの企業ブランド(エナセーブ、ブルーアース、エコピアなど)の開発だけでなく、「低燃費タイ ヤ」というグローバル・マスター・ブランドの創出に成功したロールモデルといえます。

その後、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING事業:京都大学)や、技術研究組合FC- Cubicも参画する燃料電池イノベーション研究センター(電気通信大学)などの産学連携活用のプロジェクトも専用のビームラインを建設して研究開発を進 めています。

東北放射光施設では、これらの経験を踏まえ、より機動的かつ効率的な運用を行い、ほぼ全てのビームラインでコウリション・コンセプトによる利用を可能とする予定です。 コウリション・コンセプトのもと、先端放射光技術を研究開発に投入し、全国の放射光施設とともに新たなイノベーションの基盤インフラとしての機能を果たしていきます。

SLiT-Jは、放射光を活用したイノベーションの「必須通過点」となることを目指しています

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