東北放射光施設計画
SLiT-J 計画の概要と経緯
シンクロトロン放射光施設は、光速に近い速度で運動する電子から放出される、輝度の高い光(放射光)を利用した様々な研究を行う施設です。APS(アメリカ) や ESRF(EU) などの大型放射光施設は国家レベルの戦略的な研究施設として運営されています。日本においても、その有用性は早くから認められており、現在も SPring-8(兵庫) や Photon Factory(つくば) を初めとして、現在も多くの放射光施設が稼働しています。
一方で、日本国内の既存放射光施設は、そのハード面およびソフト面において、以下の問題を抱えています。
[ハード面での問題点]
●高輝度軟X線光源が不在であり、軟X線ナノアプリケーション利用環境が大幅に遅れている
●軟X線ナノアプリケーション用の汎用ビームラインが存在しないため既存の大型放射光で得られたノウハウが活用ができない
●大型放射光施設が関東および関西に集中しており、東北地方が地理的な空白地帯となっている
[ソフト面での問題点]
●産業分野において近年急増している軟X線アプリケーションの需要に対応できず、慢性的なビームタイム不足の状況にある
●実験課題の募集間隔が大きく、産業界の開発ペースに合わせた利用機会の提供ができていないため PDCA (Plan-Do-Check-Act) サイクルの遅延を生じる
東北放射光計画は高輝度軟X線のための最先端施設である「東北放射光施設(SLiT-J)」 を東北地方に建設することによって、これらの課題を一挙に解決することを目的としています。たとえば SLiT-J では、硬X線領域に重点を置いている既存の放射光施設 (SPring-8、 SPring-8 Ⅱなど)での実施が難しい、高輝度軟X線を活用した以下のような研究テーマを実施することができます。
●新機能炭素材料・デバイスの開発
●細胞内部の三次元的かつ経時的変化の直接観察
●たんぱく質の酵素反応解析
●光電子顕微鏡(PEEM)を用いた酸素・窒素を含む材料の磁区構造解析
●軽元素の高分解能原子分子分光
●軟X線顕微鏡の開発とデバイスへの応用
すなわち SLiT-J(軟X線領域)は利用エネルギー帯域の観点から、特に SPring-8 などの硬X線領域に重点を置いた既存放射光施設の空白部を補完するものであり、研究の発展における相乗効果が期待できます。
また、現在において放射光施設の地理的な空白地帯となっている東北地方に建設することにより、近未来に発生が予測される東南海沖地震に対する、地理的なリスク分散の機能も果たすことができます。
構想の概要および経緯の詳細は、以下の PDF ファイルをご参照ください。